時計という装置が発明される以前には、人と他の生物との関係はいまと異なるものだったのではないか。アフリカのヌアー族の言葉には時間に相当する概念がなく、彼らの家畜である牛の行動や、人が牛のためにおこなう労働によって一日が区切られたという。かつては天体の運動だけでなく他の生物の振る舞いや彼らとの関わりが、時間を知覚するための重要な手がかりだった事が想像できる。
《dæġmǣl paramekairós》は、ミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)の体内時計を計測し、そこから音によって時間の単位を作り出すことで、時計の発明以前にあり得たかもしれない、他の生物との関係性から築かれる時間の表現を試みる。生物の体内時計はおもに可視光によって位相や周期が変化するため、計測に赤外線を用いたこの装置がもつリズムは、それが置かれた場所の経度・日当たりや、その部屋で暮らす人の活動に強く影響を受け、鑑賞者と生物の関係の在り方の数だけ、さまざまな種類の時間が立ち現れる。
この装置によって時間は定量可能な対象というよりも、他の生き物との関わりによって定義される経験になるだろう。
本プロジェクトでは、従来の時計のような表現方法に頼ることなく、生物相互の関係から時間を表現する手法を研究しています。 今後、装置のデザインや体験の改良などのため、作品の鑑賞者・実験参加者としてプロジェクトにご協力いただける方を募集しています。 今後なにかの機会にご連絡を差し上げてよい場合には、フォームからご登録をお願いします。(全員にご連絡があるとは限りません)
2023年 2月20日
《dæġmǣl paramekairós》ほか、作品鑑賞者・実験協力者募集フォーム